愛を教えて ―背徳の秘書―
(15)女の涙
宗が香織のコーポに着いたとき、ポツポツと雨が落ち始めた。
今日はRX-7ではなくタクシーである。どうにか理由をつけて、宗は会社を抜けて来たのだった。
『待て……落ち着けよ、な、香織』
『死ぬわ。もう、どうでもいい。どうせ生きていても、よい事なんてひとつもないもの』
さすがに色んな経験をして来たが、女性に自殺を仄めかされたのは初めてだ。
まさか、いくら宗でも『勝手にしろ』とは言えない。話をしよう、ちゃんと聞くから……そんな言葉で落ち着かせようとした。
『じゃあ、すぐに来て!』
『無茶言うなよ。仕事中なんだ。ロンドン本社の件で会議が……』
『だったらいいわ。あの中澤とでも……メイドの娘とでも仲よくやるのね。私は、あなたの人生から消えるから……それで文句ないでしょう? さようなら』
『おいっ! 香織……』
しばらくすると、携帯の画面は通話時間に切り替わった。切れたのだ。いや、香織が切った。
いくらなんでも本当に自殺などしないだろう。そう思う反面、もし朝美を突き飛ばしたのが香織なら……相当不味いことになる。
宗は身内の不幸をでっち上げ、急遽、卓巳に別の秘書を手配したのだった。
今日はRX-7ではなくタクシーである。どうにか理由をつけて、宗は会社を抜けて来たのだった。
『待て……落ち着けよ、な、香織』
『死ぬわ。もう、どうでもいい。どうせ生きていても、よい事なんてひとつもないもの』
さすがに色んな経験をして来たが、女性に自殺を仄めかされたのは初めてだ。
まさか、いくら宗でも『勝手にしろ』とは言えない。話をしよう、ちゃんと聞くから……そんな言葉で落ち着かせようとした。
『じゃあ、すぐに来て!』
『無茶言うなよ。仕事中なんだ。ロンドン本社の件で会議が……』
『だったらいいわ。あの中澤とでも……メイドの娘とでも仲よくやるのね。私は、あなたの人生から消えるから……それで文句ないでしょう? さようなら』
『おいっ! 香織……』
しばらくすると、携帯の画面は通話時間に切り替わった。切れたのだ。いや、香織が切った。
いくらなんでも本当に自殺などしないだろう。そう思う反面、もし朝美を突き飛ばしたのが香織なら……相当不味いことになる。
宗は身内の不幸をでっち上げ、急遽、卓巳に別の秘書を手配したのだった。