愛を教えて ―背徳の秘書―
雪音が言い返したことに、朝美は驚きの声を上げる。


『あら? 子猫ちゃんにも爪があったのね」

『一応ね。オバサンほどじゃないけど』


朝美の頬は微妙に引き攣っていた。

彼女の足が骨折していなければ、ふたりはこの場で取っ組み合いの喧嘩を始めていたかもしれない。



朝美は写真のことは決して認めようとはしなかった。

だが、雪音に香織の住所を教えてくれた。朝美にどんな思惑があるのかわからない。だが、雪音は宗の本心を知るために、香織のコーポを訪れたのである。


電車を降り、自動改札を抜けると外は雨だった。

雪音は駅前のコンビニに走り、白いビニール傘を一本買う。

幸い土砂降りというほどでもなく、舗装された道路を歩く分には、それほど足下も汚れずに済みそうだ。

そして現れたのは、例の写真に写ったコーポ――。

しかも雨まで降っているので、丸っきり同じに見える。


雪音は深呼吸して階段の方に向かう。


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