君がいたことを忘れない

2

それから里英に連絡が取れたのは、1週間後のことであった。

明善は当然のことながら、1週間補講には行っていない。行くわけがない。行く理由がない。

里英は

「ごめん…ごめんね…。」

と謝るばかりで、何も教えてくれない。

近所のファミレスで沈黙の時間が続く。

何故、手首を切ったか聞いていても、謝るばかりなので明善は

「どっか、行きたいところある?」

と尋ねてみた。

「海。海が見たいの。」

「海なら毎日見てるじゃないか。」

そうである。2人の通う学校は海の目の前にあるし、2人の家だって海からそう遠くはない。

「そ、そうだよね。」

おかしなことを言い出すな。頭がおかしくなったんじゃないか。と思いながらも、明善がそれを口に出すことはなかった。

明善は伝票を握りしめ、立ち上がる。

里英はとぼとぼとあとを着いてくる。

外に出たとこで

「またね。」

と言って、自転車に跨り明善はその場を立ち去った。

明善は正直、苛立っていた。

部活を引退し、里英と楽しい夏休みを送る予定だった明善にとって、完全な計算はずれである。

明善の進路はというと、とっくに親戚のやっている電機会社に就職が決まっていた。夏休みはたまにそこにアルバイトとして、仕事の手伝い及び研修に行くのみである。

要するに夏休み、暇ということが決まったようなものだ。

野球部の仲間たちは、みんな大学や専門学校に受験する者が多く、明善と遊んでる暇などない。

家に帰り、覚えたてのタバコをふかす。まだ、タバコの煙に慣れていない明善は、軽く咳き込みながら、丁寧にタバコを1本吸い終えた。

そして、もうすることがない。

5分くらい、テレビのワイドショーを眺めていると、スマートフォンが里英からのメールの着信を告げた。


海を見てくるね。 里英
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