大人の世界

1



「キュウキさん、KABUKIは?いまでも行っ とるん?」



「ううん、辞めたよ。今はラウンジでボーイしとる」

「へぇ~」


「今年で大学卒業やしな。そろそろ、就活せ んなんし・・・。簡単なバイト程度」

「そっか・・・時の流れを感じるね」

「そうやね~」



初めて、バーボンのロックを飲んだ

(うっ!)

強くて飲めない



「キュウキさん、こんな強いの飲んどるが? !すごいね!」

「KABUKIで鍛えられた」

「なるほどね~」



そのバーボンの、薬に似た味のお酒が、喉 や胃の辺りに、フワッと回り、だんだん気 持ち良くなる・・・

だけど私は、その強いお酒を無理やり飲ん だ・・・

この空間の心地よさが、そうさせた・・・

決して、イヤイヤではなく、むしろ飲みた くて・・・

そうすれば、もっともっと・・・ 違う何かが見えてきそうな、気がした

何故か、 理性を失ってしまいたい

そう、思った・・・




飲めば飲むほど、どうでもいいー すべてが、どうでもいい・・・ そう、思った

それはきっと、お酒の酔い、だけのせいだ けじゃないね・・・

「あなた」がきっと、そうさせてる―――



声を落とした、テレビからの明かりが、言 葉少なめな、「キュウキ」を照らしてる・・・

だけど今の二人には、たくさんの会話なん ていらない・・・

こんなゆっくり流れる時間が、心地いい・・・

そんな気がした




「どしたん?無口やね、ゆかちゃん・・・ 」

「そんなことないよ・・・」

「あれ?酔っ払った?」



口調で、わかったみたい・・・

「別に」


「ほ~ら、そのしゃべり方!」

「だって、強いんやもん、これ」


「初めて飲んだ?」

「うん」


「なんでそんなに、ガンガン飲むん、初めて で、そんな強いやつ」




「めちゃくちゃ、酔っ払いたくなった?」


ずるい・・・ 優しい声が、響く・・・



「だって、キュウキさんがこれって、 ・・・出したから・・・」

「そうやけど、そんなに一気に飲むなんて! 」

そう言って、笑った











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