大人の世界

2




一度だけ・・・


「・・・ゆかちゃん、海、行こっか」

「キュウキ」がそう言ってくれて、

夜の海に行ったことがある・・・





夜の海は、とても綺麗で・・・


「うわあ!綺麗!」

「キュウキさん!車から、降りよ!」

「あっちの、防波堤まで行こう!」


そう言って、

「キュウキ」の手を引いて、走った



「ゆかちゃん!ちょっと待ってよ」

そう言って、

「キュウキ」と、手をつないで歩いて行った ・・・





金沢港の、

大型貨物船が、遠くに何隻も停泊していて 、

真っ黒い海面には、向こう側からの船から の灯りや、漁港センターの灯りが 水面に映って、光りが波打ってた

漁船からのオイルの臭いと、 潮のニオイ・・・



夏の、終わりのニオイがしてた・・・







防波堤の先端まで、二人で歩いて行った・・・

そこに座り、遠くに見える、灯台を眺めた・ ・・

遠く、左側にある海水浴場からは、花火を してる音がした

小さな打ち上げ花火の、綺麗な光りが見え た・・・




「そうや!キュウキさん、花火しよう!」

「えぇ?!・・・」


そうゆうと、無理やり手を引いて、コンビ ニまで行き・・・、

小さな花火を買った







「綺麗やね・・・」


「そうやな・・・。何年ぶりかな・・・、花火な んて」

そういって、「キュウキ」さんは

楽しそうに、笑った・・・


子供がするような、手持ち花火を、

二人で、

笑いながらした・・・



あっという間になくなって、


「やっぱり最後は、線香花火やな」






そうゆうと、「キュウキ」は、線香花火に火 をつけた・・・



「・・・線香花火って、すぐ消えるね・・・」

「・・・そやな」







「夏も、もう終わるね・・・」


「うん。・・・」








髪が、潮風でベタつくくらい、ずっと座っ てた・・・


「海って、いいね」

「・・・うん」





「初めて、キュウキさんち以外で、会ったね 」

「あ、・・・そうやったっけ?」

「うん。」



「・・・なんか、・・・恋人同士みたいやね!こう しとると!」

「・・・そうやな。アハハ・・・」




精一杯の、言葉だった・・・







夜の海の雰囲気が、

こうさせた・・・


だけど、何も、言ってくれないね・・・・

あの時、何も言って、くれなかったね・・・


ひと夏の、たった一度の思い出の海・・・


私は、忘れないよ・・・


潮風と、火薬の混ざった・・・、

あの、生ぬるい、夏の夜風・・・・









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