大人の世界
3
――初めて・・・
嗚咽して、泣いた・・・
「キュウキ」の部屋の、
203号室の前に、座り・・・
声をあげて、泣いた・・・
どれだけ時間がたったのだろう・・・
手足は冷たく、悴み、
体の芯まで冷えきってた・・・
この、ドアを見上げた・・・
ここから始まり、
ここで、すべて終わった・・・・
あの人を見るのが、最後になったあの日・・・
目に焼きついて、消えない
広い背中・・・
あの日が・・・、
あれが、最後だったんだね・・・
黒髪の・・・
優しい目をして、微笑む顔が
好きだった・・・
エゴイストの香りと、
バーボンの匂い・・・
大人の男の、「久木崇弘」
もっと、ちゃんと・・・
お別れできたら、よかった・・・
自分の気持ちすら伝えられないまま・・・
ただ、一言、
「ありがとう」すら、
言えないまま・・・
どんなに後悔しても、もう遅い・・・
もう、あの人はいない・・・
この、
がらんどうになった部屋みたいに、
私の心も空っぽだった・・・
一緒にいた、夏があったね・・・
一緒にいた、季節があったね・・・
短い季節だったけど、
私はずっと
忘れないよ・・・
確かにあった
二人だけの夏・・・
それから私は、
金沢港に行った・・・
大時化の、真冬の海は、
夏の賑わいを、惜しむかのように、
荒れ狂い、
まるで、泣いているかのようだった・・・
今の自分と、重なった・・・
「キュウキ」と来た、金沢港・・・
今はもう、
あの夏はいない・・・
こうして、
私の、ひと夏の恋が終わった・・・
「キュウキ」といた、
19歳の、夏――――