土の子と風の子
「あははは、そうかいそうかい。のろまな土の子は大変だなぁ。オイラなんか、春になるすぐ前にひとっ飛びすれば、あっと言う間に神様のところへついちゃうもんだがなぁ。ま、せいぜい頑張んな。」
そう言うと風の子は、また、高い笑い声と共にぴゅーっと向こうの方へ去って行きました。
風の子にそんな風に言われた土の子でしたが、全く気にしている様子はなく、変わらず自分のペースでゆっくり大地を踏みしめていました。
誰かに何かを言われたところで、自分の本来の目的を忘れるような心の持ち主ではなかったのです。
いくつもの野を越え山を越え、谷を越え川すら渡り、幾日もかけて、土の子はひたすら先を目指し、ゆっくりと進んでいきました。
行く手にどんなに大自然が立ちはだかっても、強靭な土の子の手足が負けることはありませんでした。
土の子はこの時のために、普段からたいそう鍛えてありました。


やがて土の子は、高い高い、上を見ても全く終わりが見えないほどの岩山の前に着きました。
この山を越えれば、その先に神様がいらっしゃる場所に出るのです。
「ようし。」
土の子はふんっと気合いを入れると、岩山の最初の部分に手をかけ、登って行きました。
ゆっくりと、でも確実に、土の子は天に近づいて行きます。
そこへ、また、あの聞いたことのある高い笑い声が辺りに響き、ぴゅーっと風が吹きました。
「やい、土の子。お前まーだこんなところにいるのか。それも、大変な思いをして、ひとつひとつ岩山を登って行かなければならないのかい。かわいそうになぁ。オイラなんかついちょっと前に出発したところさ。お前が一生懸命かけて歩いてきた道を、ひとっ飛びしてきてやったぞ!あはははは!」
風の子にこう言われた土の子でしたが、やはり全く気にしていない様子でした。
また、ぴゅーっとひとっ飛びでどこでも行ける風の子のことをうらやましいとも思っていませんでした。
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