土の子と風の子
土の子は、ゆっくり歩きながら見る景色が好きだったからです。
そうやって、しばらく岩山を登っていると、やがて、雨が降ってきました。
そうだと思うと、辺りは一瞬にして、嵐に変わっていきました。
風がごうごうとうなりを立て、雷が激しく辺りの岩を砕いていきます。
土の子は器用に雷を紙一重でよけながら、更に上へと登って行きました。
すると、上の方でかん高い声が聞こえました。
しかし、今度の声は笑ってはいませんでした。
なんだろうと思い、土の子が登って行き、頂上に足を据えると、目の前で先ほどの風の子が、大変困った顔で風の中に漂っているのでした。
「おうい、風の子やい、いったいどうしたんだね。」
土の子が聞くと、風の子は、泣きそうになりながら言いました。
「こいつらが邪魔して、先へ進めないんだよう。ここを通らないと、神様のところへは行けないのに。」
土の子が風の子が指を差した方を見ると、そこには、ごうごうと唸りを立てた嵐の親分が、行く手を遮っているのでありました。
「ぬははは、ここは通すまい。神のところへなぞ行かせぬぞ。春なぞこの地に来させるものか。」
嵐の親分は低い声で不気味に笑うと、自分の体をよりいっそう、大きくしました。
これでは並大抵のものでは、ここを通ることができません。
風の子も何度か通ろうと試みてみたのですが、だめでした。
風は火や水や土には何ともないのですが、同じ風である、風の子より何百倍も強い嵐の親分には、とうてい太刀打ちできないのでありました。
風の子は困り果て、どうしていいかわからずにとうとう泣いてしまいました。
土の子はようしっとふんばると、風の子に呼びかけました。
「風の子やあい、わたしの背中につかまりなさい。この嵐を一緒に抜けるぞ。」
風の子は土の子の言葉に、えっと驚きました。
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