桜花火
私は「はぁ…」と力のない相づちをうつことしかできず、
ただ呆然とその関西パワーに押されていた。
「まっ、水でたなら良かったやん。 ほんなら俺、行くから」
ニッと笑うと、その人はクルリと背を向けて歩き出した。
私は慌てて
「あっ、ありがとうございました…っ」と
少し大きめの声で、
離れていく背中に向かい言った。
その人は振り返りはせず、そのまま右手をヒラヒラさせながら、
「いーえ〜」と、
やはり流暢なイントネーションで答えて、どこかへ行ってしまった。
「あんな人いたっけなぁ…」
私は遠くなる後ろ姿をしばらく見つめ、
ふとその人が、誰かに似ているような気がした。
実は、話している時もなんとなくそれを少し感じていた。
性格とかじゃなく、
顔立ちや雰囲気が、
どこかで会ったことがあるような人だった。
思い出そうと少し考えてみたが、パッと頭に思いつく人はいなかった。
私は、まぁいつか思い出すだろう、と、ひとまずその人のことは頭の隅に収め、
目の前でジャージャー流れる水を見つめながら、
「………そういえば、
何で蛇口回んなかったんだろ……」
と、わかりようのない疑問をボソッと呟いた。
結局、
何で蛇口が"私の時だけ"
回らなかったのかは
迷宮入りとなった。