桜花火

私は「はぁ…」と力のない相づちをうつことしかできず、
ただ呆然とその関西パワーに押されていた。



「まっ、水でたなら良かったやん。 ほんなら俺、行くから」

ニッと笑うと、その人はクルリと背を向けて歩き出した。


私は慌てて

「あっ、ありがとうございました…っ」と

少し大きめの声で、
離れていく背中に向かい言った。



その人は振り返りはせず、そのまま右手をヒラヒラさせながら、

「いーえ〜」と、

やはり流暢なイントネーションで答えて、どこかへ行ってしまった。



「あんな人いたっけなぁ…」


私は遠くなる後ろ姿をしばらく見つめ、
ふとその人が、誰かに似ているような気がした。


実は、話している時もなんとなくそれを少し感じていた。


性格とかじゃなく、
顔立ちや雰囲気が、
どこかで会ったことがあるような人だった。



思い出そうと少し考えてみたが、パッと頭に思いつく人はいなかった。




私は、まぁいつか思い出すだろう、と、ひとまずその人のことは頭の隅に収め、

目の前でジャージャー流れる水を見つめながら、


「………そういえば、
何で蛇口回んなかったんだろ……」

と、わかりようのない疑問をボソッと呟いた。





結局、
何で蛇口が"私の時だけ"
回らなかったのかは

迷宮入りとなった。
< 27 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop