FORTUNE~フォーチュンシリーズPAGE1
聖は静かに立ち上がった。

「お兄ちゃん」
 
そんな聖に、沙都美は悲しそうな顔をする。

「これはお兄ちゃんの望んだ世界だよ? このままなら、ずっと幸せだよ?」

「このまま……」
 
沙都美がここにいる。
 
優しい父親がいる。
 
いつも笑っている母親がいる。
 
手に入れられなかった、夢のような幸せな家族像がここにある。このままなら、幸せ?

(……違う)
 
確かに、このままなら幸せかもしれない。自分の望んだ世界かもしれない。でも。

「父さんはこんなに優しくない。母さんはいつも悲しい顔を隠す努力してた。沙都美は……ここにいるわけがない。病院で……眠っているんだから」

「どうして思い出すの? 思い出さなきゃ幸せなのに」

「幸せかもしれない。でも、それは嘘だから」

「お兄ちゃ……」

「虚像の幸せなんて、いらない!」
 
その言葉とともに、沙都美の姿は砂となって崩れていく。両親の姿も、家も、全てが崩れ去る。



「馬鹿なことを。その中でおとなしくしていれば、こんな現実を見ることもなかったのに」

いつの間にか目の前にファリアが立っていた。

「ファリア……!」
 
構えようとしたが、何故か体が動かなかった。ここが夢幻球の結界の中だからか。
 
そんな聖の前を通り過ぎていくファリア。
 
その向かった先には。

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