FORTUNE~フォーチュンシリーズPAGE1
聖も、人の気配を感じて顔をそちらに向けた。
 
しばらくその影を凝視していたが──やがて、ホッと息をつく。

「李苑?」

「はい」
 
静かな呼びかけに、李苑は頷いて、聖の傍に寄った。

「眠れないんですか?」

「李苑こそ」

「……何だか、気が昂っているみたいで」

「俺も……」
 
聖はバルコニーの手摺りから眼下を眺める。李苑も同じように眺めた。
 
外に吊るされた提灯の橙の灯りの下、相変わらず術者達が忙しそうに往来している。

「……俺たち、休んでて大丈夫なのかな」
 
最初に邪空間が現れた時、圭一郎は『早く来て欲しい。結界は長く保たない』と言っていたはずだ。

こんな風に休んでいていいのだろうか。その懸念があったからこそ、聖は眠りにつくことが出来なかった。

「紅葉さんの話だと、今、圭一郎さんの息子さんが頑張っているそうなんです。紅葉さんに匹敵するくらいの凄い術者なんだそうですよ」
 
李苑は、穏やかな口調で語る。

「だから……心配しないで休みなさい、って。私達が倒れたら意味がないから、って」

「それは……そうなんだけど……」
 
聖は口ごもる。
 
そのことも心配だったが、一番の心配事は他にあった。

< 173 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop