平凡太~ヘイボンタ~の恋
今日も栞は出勤して来なかった。


何も行動してこない栞の静かさに、安堵よりも不安が先に立つ。


───ピンポーン


チャイムを鳴らしても、何の返事もない。


何の取り柄もないボクを好きだと意地を張っていた気持ちに、整理がついたのかもしれない。


だよ、な。


ボクみたいな男に固執したところで時間の無駄だ。


諦めがついたのなら、会社にしがみつく理由もない。


退職するつもり、か…。


アパートのドアから立ち去ろうとすると、ドアノブの回る音がした。


「平太、先輩…?」


「栞。元気かな、って、ちょっと気になってたから。それだけなんだ」


「平太先輩…!」


栞は裸足のまま玄関を出て、ボクにしがみついた。


「…っ…っ…!どうしよう…。平太先輩、あたし、どうしよう…っ!」


「栞…?」


泣きながら「どうしよう」と、そればかりを繰り返す栞に、ボクは訳もわからずただ困惑した。


アパートの住民の目も気になるから、とりあえず栞の家へあがった。
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