平凡太~ヘイボンタ~の恋
「平凡太、何で言わねぇんだよ?」


「栞は…栞はもう傷つくべきじゃない」


そう。


栞は宍戸係長に傷つけられた。


授かった子を拒まれた。


もう、それだけでいいじゃないか。


ボクの子だと誤解されてもいい。


それで栞が傷つかずに済むのなら。


たった一晩の行きずりの男に捨てられたなんてレッテルは。


今の栞に背負わせるべきじゃない。


「わかっていただけましたか?」


栞の言葉に、ボクの胸にあった小野寺主任の手が解かれる。


主任は頭を掻きむしり、その場に座り込んだ。


「…ったく。かっこつけやがって。オレ、マジムカつくし、かっこ悪りぃし」


「小野寺主任。栞の事は内密にお願いできますか?」


「わかってるよ、そんな事。はぁー…平凡太にはしてやられっぱなしだよな」


「わかっていただいて、有り難いです。社内の噂ならボクらは気にしませんし、一華にはちゃんと事情を話します。その上で何を選ぶかは一華の自由ですけど、ボクの一華に対する想いは何も変わりません」


「オマエってさぁ」


「?」


「平々凡々なフリして、やるときゃやるな?」


そう言って笑った小野寺主任は「悪かった」と一言残して屋上を去って行った。
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