平凡太~ヘイボンタ~の恋
その背中を見送って栞が駆けて来る。


痛々しそうにボクの頬を見て、ハンカチで口元を拭ってくれた。


「栞のせいで殴られちゃいました、ね?」


「あんな事…言わなくても良かったのに」


「ううん。みんな栞の蒔いた種のせいですから。来るの遅くなっちゃってゴメンナサイ。主任に呼び出された平太先輩をすぐ追いたかったんだけど、その前に一華先輩に全て話したくて…謝りたくて…。全部わかってもらえましたから、平太先輩は何も抱える必要はありませんから」


「栞…」


「ヤだなぁ、平太先輩。そんなに優しくされちゃ、ありもしない期待しちゃうじゃないですか?」


「ボクは何もできちゃいないよ」


「栞、会社辞めます」


「…え?」


「これ以上、一華先輩と平太先輩に迷惑かけられないし。ストレスは妊婦に良くないっていうから、田舎に帰って静かに暮らします」


「それって…」



「フフッ…。うん。栞、この子と一緒に生きていきます」


「そっか…」


「ハイ」


きっぱりと頷いた栞に…母のたくましさを見た気がした。
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