平凡太~ヘイボンタ~の恋
茶碗を洗い終えると同時に一華先輩が寝室から静かに出てきた。


「平太くん、ゴメンネ。ありがとう」


「いえ。こちらこそご飯ご馳走になっちゃって」


「フフッ…」


「え…?何ですか?」


「平太くんの背広にエプロン、似合ってる、ね?」


「あー…。笑えますよ、ね。でもきっと友詞さんだったらもっと見栄えしたと思います、よ?」


「友詞、そんな事してくれなかったなぁ」


「そうなんですか?」


「うん。あたしがつわりで具合悪くても、右の物を左にも移さなかった人。ご飯なんてコンビニで…あ、ごめんなさい、こんな話…」


「いいですよ。話してください。そのための“思い出”でしょ?」


「平太くんは…」


「ハイ?」


「優しい、ね?」


その言葉が。


なんだか『友詞』の影にかけられたものじゃなく、ボクに向けた言葉に聞こえて。


…異常に照れる。
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