先生と執事【続・短編】
手に持っていたココアとクッキーを、隆也君の前へと差し出す。
すると、周囲から私達のことを冷やかすような声が上がった。
…あぁ、失敗した。
隆也君が声をかけてくれたことが嬉しすぎて、ついこんな人目の多い場所で差し入れを渡してしまった。
しかも、いくら隆也君からのリクエストだからって練習中にココアとクッキーだなんて…。
こんなのじゃ差し入れにもならないし、ただ隆也君に迷惑をかけに来てしまっただけだ。
差し出した手が震える。
駄目だ、今日は失敗ばかりで、頭の中はどんどんネガティブになっていく。
もう、隆也君が受け取ってくれたらダッシュで逃げようかな。
「永愛。」
「は、はい…っ」
ぐるぐると考え事をしている私の頭に、少し低い隆也君の声が響く。
ネガティブなことを考え周囲の目を気にする私とは違い、隆也君はとても堂々とした様子で私のことを見つめた。
「本当に来てくれるとは思ってなかった。」
「え…。」
「しかも、これまさか手作りのクッキー?」
「あ、はい…そうです…。」
質問をされる度、会話を交わす度、次に隆也君に何を言われるのだろうと緊張する。
この次は何を言われるのだろう…手作りとかありえない、とか言われるのかな…。