A'lice
「おいでよ、アリス」
「!?」
途端、耳元に声。
低く、艶っぽい男の声。
わたしは右耳を押さえて、思い切り振り返った。
けれど、そこには誰も、何もいない。
「ねぇ、朝水…。聞こえた?」
急に覚えた恐怖を振り払いたくて、隣に視線を送る。
けど、そこに求めた人物の姿はなくて。
「え…?」
それだけじゃない。
いくら美術館とはいえ、静か過ぎる館内。
さっきまでまばらにあった人影がない。
ひとつも…ない。