A'lice
「ほら、行くよ」
「い、や…っ」
目の前の絵が、迫ってくる。
絵とわたしを隔てていたポールは消えて、目と鼻の先に、それはある。
「愛してるよ、アリス」
実際では聞いたことのない愛の言葉。
それすら耳には入らない。
男の手が絵に触れた瞬間。
ぐん、と前に引っ張られた。
同時に解ける男の手。
何に、なんてわからない。
体が、何かに引っ張られていた。
わたしの体は、絵に吸収されるみたいに、するりと呑まれていった。
フェードアウトしていく意識。
その後ろで、ちゃぷん、と水が跳ねるような音が聞こえた。