愛しい人~出逢いと道標~
演じてきたものが見破られると、そのことがとても恥ずかしくなってきてしまった。


(何してたんだろ、私)


下を向き、すぐさま窓の方に視線を向けた。


「別になんとなくだよ。

違和感に気付くのなんて、そんなものだろ」


そう言われると今までの私が頭の中に浮かび、余計に恥ずかしくなる。



この人に対して本当の私が姿を現そうとしている、いや、もう現してもいいのかもしれない。


「こんな男みたいな喋りかただぞ」


「それがお前なら、それでいいじゃん」


「本当にか」


「今のお前のほうが、さっきまでよりも何倍も俺はいいよ」


由利にだけ見せていた本当の私が、名前も知らないこの人の前に姿を現した。

そのとき、胸の中を風のようなものが通り過ぎていった気がした。
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