愛しい人~出逢いと道標~
男の人がエンジンをかけ、トラックが再び動き出した。


「本当に敬語じゃなくていいんだな」


返事は分かり切っているのだが、確認のためにもう一度だけ聞いてみる。

男の人はふざけたように小さく笑ってみせた。


「何回聞くんだよ」


その笑顔と声でこちらまで思わずにやけてしまう。

きっと、傍から見れば今の私は締まりのない顔なのだろうが、自分で言うのもおかしいかもしれないが久しぶりにこんな表情になった。


「なんだ、さっきまで敬語使って損しちゃったよ」


「おっ、いきなり親しくなったね」


「お前が本当の自分でいいって言ったんだろ」


「いや、『敬語は使うな』しか言ってないけど」


そう言うと、お互いに今度は声を出して笑った。

だけど、実際にこの人の口からは確かに敬語は使わなくていいとしか言っておらず、勝手に私が汲み取ったのだ。
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