愛しい人~出逢いと道標~
トラックが動き出すと、先ほどのお返し代わりに何かしてやろうという遊び心が芽生えてきて、思わず笑いそうになるのを堪えた。

そんな私を入瀬は不思議そうな顔をして様子を見ていた。


「別に何でもないですよ、入口さん」


もちろん、わざとだ。

自分で言って、自分で笑いそうになり、入瀬とは逆の窓際のほうに顔を向けて堪えた。

くだらないことだが、きっと今の私には何をしても、どんなことを言っても笑ってしまうだろう。


「入口じゃねえよ」


その言い方がテレビで見る安っぽいお笑い芸人のようで、堪えていたものを私は思わず吹き出してしまった。

あまりにも可笑しくて手のひらで何度も手のひらで叩いていると、今まで見せていなかった安堵感が表情に出てきたような気がした。


「分かっているよ、入瀬でしょ」


笑いながら私が言うと、不機嫌そうに鼻息を出した。

トンネルに入り隠れてしまったものの、言われた直後の入瀬の表情は明らかに照れ笑いを浮かべていた。
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