愛しいひと
倉島side
あ、あいつは・・・・。
「倉島っ!!ボサッとしてんじゃねぇっ!!」
「っおう!」
やべー、ボール取られるところだった。
かろうじて、ディフェンスを抜けば、観客が湧く。響く黄色い声。こういう時は、素直にテンションが上がる。
「いけ!」
チームメイトの掛け声と共に、思いっきり飛ぶ。ノーマーク、スリーポイント。
フォームに、ブレは無く、ボールは弧を描きながら、ゴールへ吸い込まれた。
「よっし!」
思わずガッツポーズを決めて、試合終了。
ふと、あいつがいたことを思い出し、観客を見渡す。
「倉島キャプテン。しっかりしてくださいな。」
「え!?」
振り向けば、顧問の先生が、笑顔で怒りマークを浮かべていた。
「す、すんません」
咄嗟に謝ると、部員だけでなく、観客、その他の部活生にまで笑われた。
「観客が女子ばっかだから、可愛い子でも探してたんだろ。」
「お前と一緒にすんな」
「ひでえ!!」
副キャプテンの谷とは長い付き合いだ。かれこれ12年はダチをやってっから、こんな言い合いも慣れっこだ。
そんな感じでミーティングが終わり、もう一度観客を見ると、そこにあいつはいなかった。
「ほらな、やっぱり、お目当ての子がいたんだろ」
谷の言葉に、話しかけられなかった悔しさと、図星を指された恥ずかしさが、一気に込み上げた。