愛しいひと

「にしてもよー。」


火照った顔に風を送っていると、モップの柄に顎を乗せ、谷が呟いた。


「やっぱ、美人だよなー。
綾川由梨。」


誰もいなくなった観客席を見て、切なそうなため息を吐いた。


「・・・・そうか?」

「"そうか?"って、お前の目は節穴か?」


あり得ない。と目が言っている。・・・・何でもいいけど、早く掃除してくれよ。


「ま、お前には"恋"なんて単語、存在すらしねぇんだろーな。」


今度は壁に寄り掛かり、明るく笑う。

俺は、自分の清掃区域が綺麗になったので、部室に戻る為、谷の前を通り過ぎる。


「何でもいいから、さっさっと掃除しろ。俺は、先に着替えに行く。」

「ちょ、ちょい待ち待ち!!」


部室に歩き出した俺を見て、谷は即座に掃除を再開した。

俺が部室に入って、5分もしないうちに、谷も部室に入ってきた。


「やればできんじゃん」


ネクタイを締めて、振り向き、谷に労いの言葉をかけてやる。


「いや・・・・はっきし言って、部活よっか、ハード・・・・かも。」


部活にあるベンチに腰掛け、息を整える谷。

俺達の部活の掃除は、当番制になっていて、2人組で行われている。

1人がモップを、もう1人がボール磨きと部室の掃除をすることになっている。

コートの隅から隅までモップを掛け、ボールを磨き、部室を綺麗にする。

ちゃんと綺麗になったか、互いに確認し、鍵を閉めて終了だ。





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