愛しいひと
「由梨の奴、珍しいのな。」
凛が信じられないものを見た、とでも言いたそうな顔をしている。
『・・・・嬉しい。』
「は?」
『いや、なんか由梨に言われっと、素直に受け入れられるっつーか。』
不思議なんだ。
穢れも世辞も、ましてや嫌味なんかも含まれていない。
真っ直ぐで透明な言葉。
「ま、別の意味でなら、あんたの言いたいこと、理解できるかも。」
頭の後ろで手を組み、唇を尖らせた凛も、何とはなしに、分かるようだ。
『凛の場合、"褒め"じゃなくて、"貶し"だもんね。』
由梨は誰に対しても平等に接している。故に、どことなくキツい意見も言ってくる。
「うっせ。つか、由梨が褒めるところなんて、見たことねぇんだよ。」
『凛が、誰ともツルもうとしないから、知らないだけじゃない?』
いじけたように顔を背ける凛に追い撃ちをかけ、軽い足取りで自分の席に戻った。
「・・・・単純な奴。」
褒められて、足取りが軽くなって、背中から"嬉しい"って気持ちが読み取れる。
ホント、素直だねえ。
「あなたも少しは見習ったら?」
「そりゃ、無理だな。そー言う由梨も、見習えば?」
「無理ね。」
あの子みたいに、プラスの感情ばかり出すことは、あたしらには出来ない。
そういう面では、似た者同士かもしれない凛と由梨。
「さて、いい加減あなたも、委員会に入りなさい。」
「じゃあ、生徒会役員で。」
「あなたが入ったら、学校が崩壊してしまうわ。」
凛には厳しい由梨でした。