愛しいひと
「あら、春瀬さんに椎葉さん。」
後ろから吃驚したような、あの声が聞こえてきた。
『あ、由梨。』
その場にいるだけでも、目を惹く艶やかな姿。
「何しているの?」
『部活動見物?』
「聞かれても。」
やべ、漫才出来るかも。と変な事を考えていると、何やら視線を感じた。
特に気にすること無く、コートに向き直ると、倉島くんと目が合った。
倉島くんは、目が合うと、瞬時に目を逸らした。微かに見えた頬が紅かったのは見間違いだろうか?
「・・・・やはり」
『え?』
あまりにも小さく呟くので、聞き取れず、聞き直したが、由梨は何も言わずに、立ち去った。
「なんだ、あいつ」
しばらく、由梨の後ろ姿を見送っていたら、凛が呟いた。
『さあ?やっぱり、怒ってるんじゃない?』
「ちげーよ、あほ」
凛に視線を戻すと、コートを指差していた。その指を辿ると、倉島くんの姿。
あ、また目が合った。
『倉島くんが、どうかしたの?』
何が言いたいのか分からない、と頚を傾げて、凛に尋ねる。
凛はあたまを抱えて、座り込んでしまった。あたし、変な事言ったかしら?
「あんたって、そんなに鈍かったっけ?」
『まあ、鋭くはないな』
自信を持って言い切れば、呆れたような顔を頂戴した。