愛しいひと

「あら、春瀬さんに椎葉さん。」


後ろから吃驚したような、あの声が聞こえてきた。


『あ、由梨。』


その場にいるだけでも、目を惹く艶やかな姿。


「何しているの?」

『部活動見物?』

「聞かれても。」


やべ、漫才出来るかも。と変な事を考えていると、何やら視線を感じた。

特に気にすること無く、コートに向き直ると、倉島くんと目が合った。

倉島くんは、目が合うと、瞬時に目を逸らした。微かに見えた頬が紅かったのは見間違いだろうか?


「・・・・やはり」

『え?』


あまりにも小さく呟くので、聞き取れず、聞き直したが、由梨は何も言わずに、立ち去った。


「なんだ、あいつ」


しばらく、由梨の後ろ姿を見送っていたら、凛が呟いた。


『さあ?やっぱり、怒ってるんじゃない?』

「ちげーよ、あほ」


凛に視線を戻すと、コートを指差していた。その指を辿ると、倉島くんの姿。

あ、また目が合った。


『倉島くんが、どうかしたの?』


何が言いたいのか分からない、と頚を傾げて、凛に尋ねる。

凛はあたまを抱えて、座り込んでしまった。あたし、変な事言ったかしら?


「あんたって、そんなに鈍かったっけ?」

『まあ、鋭くはないな』


自信を持って言い切れば、呆れたような顔を頂戴した。





< 9 / 14 >

この作品をシェア

pagetop