あの人について
あの人はもういない
「雪乃、可愛いよ」
「雪乃、愛してる」
彼が私に優しい言葉や
愛の言葉を囁くたび、
あの人と違う。
あの人はそんなこと言わなかった、
と思ってしまう。
彼が私のそばに寄ってくるたびに
あの人はそんなことしなかった、
と思う。
本当に私を愛しているなら、
そんなことは口に出さないはずだ、
そんなことはしないはずだ、と思い込んでいる。
あの人は私に本当の愛をくれていた。
だから本当の愛には
言葉も行動もいらない、
言葉にする愛など自己満足で
愛なのではない、と思っている。
彼からの愛を、認めるのが怖いのだ。
それを認めてしまったらあの人と過ごした数年間が
すべて偽物だったと認めることになってしまう。
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