悪魔のようなアナタ ~with.Akito~






「――――不用心すぎるぞ、灯里」



恐らく会社からそのまま来たのだろう、スーツ姿の晃人に灯里は息を飲んだ。

いつも穏やかで優しい瞳は今、昏い刃物のような鋭さを帯びている。


晃人はドアを後ろ手に締め、一歩、また一歩と灯里に近づく。

灯里は呆然と晃人を見つめたまま、じりじりと後ろに後ずさった。

晃人の目にはあの夜と同じ光がある。

――――晃人に『嫌い』と言ってしまった、あの夜……。


本能的な恐怖が込み上げ、背筋が凍りつく。

灯里は固まりかけた喉の奥から押し出すように言った。


「なっ、なんで、ここが……?」

「お前が行きそうな場所など見当がつく。市内のビジネスホテルに一軒ずつ確認したら、すぐにわかった」

「……っ」

「むしろこちらが聞きたい。なぜこんなところにいる?」


晃人の質問に灯里は息を飲んだ。

何も言えないまま、じりじりと後ろに後ずさる。

やがて足がベッドの端にトンと当たった。

――――もう後がない。


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