悪魔のようなアナタ ~with.Akito~
「今月末で退職するらしい。どうやら東京に行くようだ」
「……えっ……」
灯里は目を見開いた。
突然のことに頭が真っ白になる。
呆然とする灯里に、晃人は紅茶を一口飲んで続ける。
「ようやく戦う気になったというところなのだろうが。もともと彼はこの会社に収まるようなスペックではなかった」
「……確かに……」
「彼の能力に合った職場の方が彼自身も成長するし、やる気も出るだろう。俺は彼の挑戦を応援したいと思っている。だが……」
晃人はそこで言葉を止め、視線を上げて灯里を見た。
涼しげな一重の瞳が射抜くように灯里を見つめる。
灯里は思わず息を飲んだ。
「彼がいつ戻ってくるかはわからない。だが、いつ戻ってくるにしても……」
「……晃くん?」
「お前は渡さない。彼が成長するのなら、俺もそれ以上に成長するまでだ」
「……っ!」
「灯里、俺は待つと言ったが諦めることは絶対にない。いつか必ず、お前は俺のものになる。必ず、な」
艶のあるバリトンの響きが、灯里の胸をさざ波のように揺らす。
強引な、けれどどこか優しい晃人の瞳が絡め取るように灯里を見つめる。