悪魔のようなアナタ ~with.Akito~
くすくすと香川さんは笑う。
やがてランチが運ばれて来、二人は割り箸に手を伸ばした。
「そういえば吉倉さん。九条グループって知ってる?」
香川さんの突然の言葉に灯里は息を飲んだ。
もちろん知っている、というか忘れたくても忘れられない。
灯里は訝しみながら頷いた。
「え、ええ……」
「あそこの資金繰りがマズイらしいのよ~。海外関係でしくじったらしくてね」
「えっ……」
「今、うちの部でいろいろ調べてるんだけど。多分電機設備課にも調査依頼がいくと思うわ」
「……そ、そうなんですか」
「とりあえず与信の確認かしらね。この忙しい時期にまいっちゃうわ、全く」
香川さんはぷりぷりしながらランチの魚をつつく。
香川さんは経理部に所属しており、取引先ごとの与信情報の管理を行っている。
灯里は朝子の顔を思い出した。
あれから灯里は朝子とは会っていない。
晃人も何も言っていないが……。
『お前は何も心配するな。例の件は俺がどうにかする』
ふと晃人の言葉を思い出す。
どうにかすると言っていたが、晃人はどうするつもりなのだろうか……。
なぜか冷たいものが背筋を走る。
灯里はハハと慌てて笑い、ランチの魚に箸を伸ばした……。