悪魔のようなアナタ ~with.Akito~
社交辞令だとわかってはいても、なんだか胸がモヤモヤする。
香川さんは昔からこういう場でお酌することに慣れているため、晃人の隣に座っていても違和感はあまりないが……。
灯里が晃人の隣に座ったら明らかに不審な目で見られるだろう。
――――近づくことさえできない、関係。
灯里は静かに立ち上がり、ポーチを手に御手洗いへと向かった。
鏡の前に身を乗り出し、化粧を軽く直して髪を整える。
少しここで休んでから戻ろう、と洗面台に手をついた時。
「吉倉?」
ドアの向こうから聞こえた低い声に、灯里ははっと背筋を伸ばした。
晃人だ。
灯里は慌てて御手洗いを出た。
見ると、御手洗いの入口に置かれた観葉植物のところに晃人が立っている。
晃人はすっと歩み寄り、灯里を見下ろした。
「メールできなくてすまない。新年会はあと20分で終わる。9時半に海岸通りの入り口で待ち合わせにしよう」
「うん、わかった」
「気を付けてくるんだぞ、灯里」
言葉と共に晃人の唇が灯里の頬を掠める。
突然のことに灯里はカッと頬を染めた。
毎度のことながら晃人の不意打ちにはなかなか慣れない。
そしてその度に心臓がドキドキする。
晃人は踵を返し、会場の方へと戻っていく。
灯里はその背を見送った後、辺りを見回して静かに席に戻った。