悪魔のようなアナタ ~with.Akito~
呆然とする灯里の前で、晃人は男の腕を掴んだまま耳元に何やら囁いた。
とたん、男の顔が真っ青に変わる。
そして晃人が手を離した瞬間、男は脱兎のごとく逃げ出した。
男は一度もこちらを振り返ることなく物凄い速さで人混みの中へと消えていく。
「…………」
灯里はぽかんとその光景を見つめていた。
一体何が起こったのか?
唖然とする灯里に晃人はゆっくりと歩み寄ってくる。
その目にはもう昏い影はない。
「大丈夫か、灯里?」
灯里はまじまじと晃人を見上げた。
灯里を心配そうに見る瞳も、声音も、いつもの晃人のものだ。
今見た光景が幻だったかのように思えてしまう。
灯里は慌てて言った。
「だ、大丈夫……。ありがとう、晃くん」
「お前の家まで迎えに行くべきだったな。俺のミスだ、すまない」
晃人の言葉に灯里はぶんぶんと首を振った。
晃人のせいではない。
はっきり断れなかった自分が悪いのだ。