悪魔のようなアナタ ~with.Akito~
その日の定時後。
灯里はバッグを抱えて駅への道を歩いていた。
昨夜降った雪が泥に汚れ、道路の脇で固まっている。
なんだか自分の心みたいだ、と思いながら灯里は帰り路をとぼとぼ歩いていた。
その時。
灯里の目の前で黒いハイヤーが静かに止まった。
驚き足を止めた灯里の前で、ハイヤーのドアがゆっくりと開く。
「……っ?」
壮年の男性がゆっくりとハイヤーから降り立つ。
見覚えのあるその姿に、灯里は息を飲んだ。
「――――神園のおじさん?」
男性は灯里の姿を見るなり、微かに目を細めた。
――――神園重人。
10年前まで隣に住んでいた晃人の父だ。
灯里は思わず目を見開いて重人を見つめた。
あの頃よりだいぶ白髪が増えたが、晃人とよく似たその切れ長の瞳や、温厚さと厳しさを併せ持ったその雰囲気は変わっていない。
「久しぶりだね、灯里ちゃん」
重人は灯里の前まで歩み寄り、灯里の姿を見下ろした。
その眼差しはどこか懐かしげだが、灯里は重人がここに来た理由をなんとなく察し、身を強張らせた。