人形の微笑
現在の時刻は午前3時。
初夏といえど、早朝は冷え込む。
「………っくちゅん」
リリスは、年相応の可愛らしいくしゃみを一つしながら、シルヴ城の真っ白な塀へと近付いた。
クロアを殺した後に使う予定だった逃走ルートを逆走して、城の中へと何食わぬ顔で潜り込む。
周囲には、人の子一人存在していない。
『私が城から出ている間に、クロアが別の刺客に殺されていたら元も子もないな……』
などと考えていると、不意に体が熱いことに気が付いた。