蜜柑色の淋檎【短篇】
─同じジンでドライマティーニを…。

─マティーニなら別のジンがいいよ。

バーテンダーが最もらしく眉間を上に上げていた。

─同じお酒が飲みたいの…。

彼女のさりげないスマートさは、酒を知らない女のそれではなく、銘柄を指名した俺への心配りだ。

─じゃあ甘いベルモットは少しも入れない方がいいよ。

今度は優しい顔で小さく頷くバーテン。

─どうして?

大きな瞳を僅かに開き、髪と首を傾ける彼女。

─この時間が甘いから、ドライじゃなくなるよ。

そう言って茶化すと、ゆっくりと瞳を閉じ、開くと同時に甘い笑顔を見せた。

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