君に、この声を。
「私だって――」
智那がかすかに小さな声で呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。
「は?」
「私だって――合唱本気だったよっ!」
突如耳に届いた智那の大きな声。
智那の前髪が、むなしく揺れた。
「だったら何で――」
「もうっ……こうするしかないから……っ」
智那がうつむいて、手の甲で涙をぬぐった。
いつもの智那の艶やかな髪の毛は、今は萎れているようにしか見えない。
「奏太はっ……いいよねっ……。れっきとした合唱部員だから――」
顔を上げた智那の瞳が、鋭く光っていた。
それは、蛇に睨まれているようで。
蛙のように、俺は何も言い返すことができなかった。