君に、この声を。
「だから――もう……」
もうすでに、智那の奥にいる吹奏楽部の部長なんか気にならなかった。
目の前にいる智那だけを見つめる。
す少しして、智那が小さく震えていることに気がついた。
どれだけ、1人で抱え込んできていたんだろう。
どれだけ、1人で我慢してきていたんだろう。
こんな小さい体に、どれだけの負担がかかっていたんだろう。
今さらになって、智那が抱えていた不安の大きさに気がついた。
バカだ、俺。
そう思ったときだった。
「もう、私なんかに構わないで」
智那の、拒絶の言葉が聞こえてきたのは。
そう言うなり、智那は空気を切るように俺の目の前から立ち去った。
真横を通りすぎるとき、かすかに風が吹いた。
俺は、呆然とそこに立ち尽くすことしかできなかった。