君に、この声を。
何かを思い出しそう。
でも、何もわからない。
なんなんだ……?
「どうしたの?」
その声で、再び現実に引き戻される。
目の前には、眉毛をはちの字にした、心配そうな智那。
「すごい深刻そうな顔してるけど……」
「いや、なんでもない」
俺は慌てて否定し、まっすぐ天井を見た。
「ならいいけど」と、智那は案外簡単に話題から離れてくれた。
根拠なんか何もない。
でも、智那にはこの気持ちを言ったらいけない気がした。