君に、この声を。
「じゃぁお父さんに帰りにりんご買ってきてって頼む?」
「そうして」
俺の返事に半分呆れながら(とは言いつつ笑いながら)、母さんは部屋を出ていった。
そのときの俺は、いっぱいあったりんごをすぐに食べ尽くすほどの回復力があった。
だから、布団の中でじっとしているのは暇で暇でしょうがなかった。
俺はベッドの近くに置いてあったいつしかの演奏会のプログラムを手に取り、ボーッと眺め始めた。
『客演者紹介』と印刷されたページには、大きく父さんの写真がうつっている。
その写真の横には、学歴とその他もろもろの情報。
合唱界で知らない人はいないくらい、有名な木村浩昭。
俺の実の父親であり、俺の一番の憧れ。
いつか、父さんみたいな音楽家になる。
いつかきっと、父さんをこえてみせる――。