才能のない作曲家
終わりの始まり
「私と、別れて下さい。」
「理由は聞かないで。」
「ごめんなさい。」
もう、彼女の声なんて、出てなかった。
僕が君の声を聞き取れたのは、こう言われることを正確に予感していたからかも知れない。
理由、なんて。
聞けるわけがない。だって、分かりきっている。
君が僕を心から愛してくれているのは、僕が一番知っているから。
それでも君がその決断を出したのだから、僕たちにはもう、それしか道がなかったということだろう。
「ごめん…、ごめん、私…っ」
「、…うん」
「ごめんなさい…っ」
「もう、いいから」
目の前で震えながら泣く彼女を抱きしめると、以前よりずっと骨張った身体に気が付いた。
君がこんなに苦しんでいるのを知りながら、僕は何も出来なかった。
これは当然の報いだ。