才能のない作曲家
「聖吾・・・」
「ん」
僕にサンドウィッチを買って来てくれた麻子。
下を向き、唇を噛み締め、この世の終わりのような顔をしている。
さあ、僕には最後の仕事が残っている。
僕には、やるべきことがある。
ヒールにはヒールの役割が。
ヒールはどこまでもヒールでなければ。
僕は、君を捨てなければ。
「渡したいものがあるの」
「俺も」
下を向いていた彼女が、意を決したように何かを僕に差し出そうとしたから、僕は慌ててそれを止めた。
昨夜、君が机に向かって何かをしていたことは知っている。
僕の予感が正しければ、それは僕への手紙だろう。
内容がどうであれ、今の僕がそれを受け取ったなら、
これから僕のしようとしていることが実行に移せなくなると、
本能的に察した。