才能のない作曲家
偽りだらけの真実
君の守りたいもの、
いや、守らなければならないものは、僕じゃなかった。
正確に言えば、僕は守られなくても、この悲しみを受け入れる手段を知っている――・・・
そのことを君はよく理解していた。
そして僕も理解している。
君が、多くを天秤に掛け、そして僕を捨てたのだという事実を。
それを責めるつもりもなければ、
責めることの出来る立場でもない。
あの日、『何とかする』そう言った彼女は、
僕の大切な人たちを必ず守ると約束したけれど、
僕を守るだなんて、ただの一言も言わなかった。
「これしかなかったの」
そう告げられた時、頭が真っ白になった。
そして、それでも僕は確かに感じていた。
彼女を愛していた。
彼女が愛しかった。
僕を信じ、僕をあっさりと売り渡す君が、
たまらなく愛しかった。
泣きじゃくる君が、死ぬほど愛しかった。