才能のない作曲家




「全てなかったことにすれば、終わりにしてくれるって」




悪魔のような条件に頷く以外、君に道はなかっただろうし、
僕が君でも、きっと同じ決断をしていただろう。

恋人を助けるか、
恋人以外の関係ない多くの人間を助けるか。

おめでたい人間だと嘲笑われてもいい。

僕は信じているんだ。

君は僕を信じて、僕を捨てたのだと。




「私たちの前から、消えて・・・」

「え・・・?」

「お願い、約束したの・・・。ごめん・・・、いなくなって。もう、いなくなって!!」

「・・・?」

「私と、別れて下さい・・・」




僕が常々言っていることの中に、
何か新しいものを手に入れるためには、
何かを犠牲にしなければならないという言葉がある。

そうか、それが僕になりうる可能性を、どうして今まで僕は考えなかったのだろう。




パリの空は、今日、曇り時々雨。

君が泣いている。

君の涙を、僕は望んでなんかしなくて、
僕は君の笑顔が大好きで。

だから、君の決断は、正しかったのだと心から思えるよ。




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