才能のない作曲家




僕はあの日、親友に何を告げるつもりだったのだろう。


それとも――・・・。




パリに行く、そう決断したとき、
もう親友にも会えなくなることはわかっていた。

なぜなら、その事実こそが、取引の条件の第一なのだろうから。

僕は辛かったのだろう。
それでも感じていた。

心が繋がっていれば、僕は世界のどんな僻地にいても、必ず頑張れるだろうと。




誰か一人でいい、側に居てくれなくていい、
僕の心に、居て欲しかった。
偽りだらけの真実の中で、僕の言葉を信じてくれる人が居て欲しかった。
僕にとってその誰かは、たった一人の親友だった。




今となっては、そいつが僕の話を聞かなくて良かったと思っている。
そいつを苦しめるだけだから。

そうだ、彼女は僕に言った。

『悪役は、慣れているでしょう?』と。

僕はそれに頷き笑ったはずなのに、ヒールになりきれなかったのだ。




親友はそれを悟ったのかもしれない。
わざとあんな声を出したのかもしれない。

やりきれよ、と。

きっとそうだ。あれは親友からの喝だったのだ。

守りたいんだろ、と。




あの電話がなければ、僕はきっと、成田で君を抱きしめてしまったかもしれない。
僕と一緒に行こうと、そう言ってしまったかもしれない。
下を向き続ける君の顎を掴み、キスをしてしまったかもしれない。
そしてそのまま君を、連れ去ってしまっていたかもしれない。




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