才能のない作曲家
「麻子、もう俺それやるからお前座ってろ」
「えぇー!せっかくここまでやったのに!!」
「危ないから」
「そんなこと言って、最後だけ手伝って、俺が作ってやったみたいな顔しようとしてんじゃないのー?」
んー?って俺の顔をのぞき込んでくるその瞳は子供みたいにキラキラしていた。
「そういうこというんだ、もう手伝ってやんねー」
「うそ!嘘だから!もう、拗ねないでよ」
「ちゃんと謝って」
「う・・・、ごめんなさい」
「よく出来ました」
ポンポンと頭を撫でると、尖らせてた唇が元に戻り、
ストンと俺の胸に飛び込んでくる。
「麻子?」
「・・・、幸せだから、こうしたくて」
「、そっか・・・」
「もう少し、こうしていてもいい?」
「ん、いいよ」
「ありがと・・・」
今思えば、何気ない毎日すら奇跡の積み重ねだった。
麻子は僕よりももっと、『終わり』を感じていたのかもしれない。
いつも僕に甘え、一緒にいられる時間は僕の側を離れようとしなかった麻子。
僕がもっと、君の心に寄り添ってあげていたなら、
今とは違う結末が、僕らには待っていたのかも知れない。