才能のない作曲家
どうにかこうにか、きっと彼女は今試行錯誤しているのだろう。
様々な事実確認をしながら。
目に見えるようだ。
「あんた一人が犠牲になるなんて終わり方、あたし絶対許さないからね!」
もういいんだ、そう言った僕に、
何がいいんだ、と泣いた人。
こんなこと、許されてたまるかと、泣いた人。
パリに来る決心をした僕を、必死で引き止めてくれた人。
「一緒に麻子を守ろうって言った。あたしたちはそのために、もう色んな嘘をついてきたじゃない。もう何が真実なのかもわからなくなるくらい・・・多くの人を騙してきたじゃない。でもそこには、麻子を守りたいっていう真実の想いがあったから・・・だからそういう道をあたしたちは選んで来たんでしょ?今更、あんたが一人で悪者になって、あたし一人善人ズラなんか出来ないよ、させないでよ。別の道を、探そうよ・・・」
別の道なら、僕も探したよ。
けれどね、見つからなかった。
僕には、空・・・、
麻子と離れてこのパリで暮らしていく以外の道は
見つからなかったんだよ。
だって一体僕に何が出来る?
力のない僕が、どうしたら麻子を守れる?
愛する人を守りたいのは、誰しも一緒のはず。
僕が側にいては彼女を守れない。
でももし、離れることで、彼女を守れるんだと知ったら・・・
ねえ、僕はその決断以外にどんな答えを出せるというの?