【掌編集】魔法使と少年少女。
 キスをルルゥが自覚し拒絶を露わにするより早く男はその身を離した。何事もなかったかのように慈悲ににた笑みはそのまま。

「終わったよ」

 ぽん、と軽くさっきまで触れていたルルゥの右わき腹を叩く。痛い、と今度こそ抗議しようとしたルルゥはその違和感に気づいた。
 ―――傷が、ない。

「うそっ」

 信じられないとばかりに声を上げ、ルルゥは飛び起きた。次の瞬間にはくらりと目眩を起こし、また後ろに昏倒したが。
 失った血の量が多かったのか傷がなくなってもだるさはすぐには回復はしないようだったが、しばらくじっとしていることで状態は改善されるだろう。

「あんた、治療師か何かか…」

 不遜で懐疑的ななまざしでルルゥが詰問すると笑っていた男は意味深に口元をゆがめた。

「いや、愛の力」

「……」

「―――冗談だよ、うん、君の言うとおり第七に属してる」

 第七。
 特殊能力者育成プログラムで能力を持ち得た軍の異端児たちが配属された部署だ。その中に一人、治癒に長けた能力者がいると聞いた覚えがあった。ルルゥのような一般軍人は彼を治療師と呼んでいた。

「息のある人を捜しにきたんだけど残念ながら君が最初で最後みたい」
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