好きになっても、いいですか?

(やっぱり……!)

その写真は、やはり先刻、麻子にぶつかり悪態をついたあの男だった。


「どう?男前でしょう?」
「…………」
「あ、もしかして麻子ちゃん。社長と会えたんじゃ……」


泰恵が目を輝かせて麻子を見て言った。
“ラッキーね”、とでも言わんばかりの高揚具合だ。
だけど麻子にとって、男前だろうが、若かろうが関係ない。さっきの出逢いでわかってるのは、ただの無粋で冷徹な“お偉いさん”――。


「何かお話したの?どうだった?あー私があと20若ければねぇ。あ、でも麻子ちゃん、美人さんだからお似合いよ!」
「いえ、私は……」
「いいわぁ。美男美女カップル!」
「泰恵さん……仕事しましょう……」


泰恵のマシンガントークはいつものこと。
それを苦笑しながら麻子はいつも受け流す。これと言って苦痛な訳ではないが、今回の話題はどうも落ち着かず、麻子は話を終わらせて通常業務に戻りたかった。


「え?ああ、そうね。あ!もうすぐお昼になっちゃう!」


そして一人で話を完結させて、やり残しの仕事に慌てて戻る泰恵を麻子は軽い溜め息をついて笑う。そして、自分も目の前の仕事に向きなおした。

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