好きになっても、いいですか?

麻子はナースステーションから視線を外すと、残りのコーヒーを一気に飲み干した。空き缶を、自動販売機の隣にあるゴミ箱に捨てようと椅子を立ったとき。

コツリ···と、耳に届く。

視線はちょうど、その音の鳴る方を向いていた。
ナースサンダルの音ではない。

この時間に面会にくる人も普通いないだろう。その足音はどうやら革靴。

しかし、ありふれたはずの革靴なのに、今、目の前にある靴は不思議と見たことのあるような、特別な靴のような――。

麻子がぼんやりとした思考でそんなことを考え、ゆっくりと顔を上げると、目の前にはこんなところに来る筈のない男の姿。


「――――なっ……」
「人に勧めておいて、自分は食さないってことはないだろうな?」


無造作に渡された麻子の手には、この間“ソイツ”に渡した、ロゴの入ったビニール袋。



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