好きになっても、いいですか?
「え?あの……もう帰りますから」
「――――敦志から、電話が行ったんだろう」
「え?ああ、はい……驚きましたけど」
「驚く?」
「はい。知らない番号だったので」
麻子がそう答えると、純一の表情が心なしか少し和らいだように見えた。
不思議に思って純一を黙って見ていると、今度は純一が目を逸らして麻子に言った。
「何がいい?」
「はい?」
「――礼だ」
純一が親指で示したのは自動販売機。
麻子は今すぐにでも帰りたかったが、ここは好意を受け入れた方がいいのか、止む無く素直に従った。
「じゃあ、お茶を……」
無言で純一が数メートル先の自動販売機に向かう姿を見た後に、エントランスホールをぐるりと見渡した。
オシャレなソファがいくつも並び、綺麗に花も飾ってある。
ふと、奥の硝子張りの空間に気が付いて麻子はそこへ近づいていく。