好きになっても、いいですか?
その先にある空間は、室内プール。
青々とした水面がゆらりと波打って、館内の照明を反射させてキラキラしていた。
プールを利用している人は、今は誰もいない。
ただ、静かにゆらゆらと。
その水面に吸い込まれるように、麻子はそこから動けなくなる。
そして――――。
「――――芹沢ッ……!?」
近くからのような、遠くからのような。
自分を呼ぶ声が聞こえた気がする。
だけど、目の前が真っ暗で、心はざわざわとして――。
全身の力が抜けて、麻子にはその声も聞こえなくなってしまった。
「おか……さ、ん」
完全に目を閉じる直前に、無意識に口から出ていた言葉は麻子自身は記憶に残っていないが、純一には鮮明に残る。
「お……かあ、さん?」
麻子を支える純一は、その麻子の言葉を復唱し、気を失った麻子の顔を見つめていた。